2008年02月26日

入試問題

先日、ある出版社からメールがきた。

本年度のある学校の入試問題にあなたの文章が使用されたので、テキストに使用する許可を頂きたい、とのことだった。

都内にあるかなり有名な進学校の入試問題だったらしい。
毎年東大に数十人も入学者を送り込むようなところである。

正直、自分の文章が入試問題になるなんて、これっぽっちも考えたことがなかった。
そもそも入試問題といえば、文豪の作品か、小林秀雄などの格調高い評論がほとんどである。

一方、私の文章なんて、例えて言えば、生ゴミのようなものだ。
股間だの、垢だの、精力剤だのという描写が最初から最後まで並んでいて、品もクソもない。むしろ、下品である。
どう贔屓目に見ても、入試問題に適しているなんてお世辞にもいえない。
なのに、名門高校の入試問題になってしまったのである。

件の作品は、『布団乞食』というものだ。
インドのコルカタにいた布団を買ってもらっては売っている乞食の女性についてのエッセーである。
ちょうど二年ほど前に文芸誌『新潮』に書いて、去年の春だったか夏だったかに『ベストエッセー2006』という本に掲載された。
考えてみると、この本は光村図書という教材関係もあつかっている出版社である。
もしかしたら、学校の先生というのは、こういう本から入試問題に適した文章を探しているのかもしれない。(まったくの推測である)

ともあれ、自分の文章がテストになったという思いがけない話をきいて、ふと思った。

これは喜んで良いものなのだろうか?

私は常々「中学生でも読んで何かを感じられる文章」を目指して書いている。
だから、一般的なノンフィクションにあるような時代背景の説明や、引用・統計や、国の事情などは極力排除している。小難しい話も一切しない。
その国がどこにあるのかも、その国の人間の肌が何色をしているかも知らない人にも、読んで何かを感じてもらいたいと思っているからだ。
そこがノンフィクションらしくないといわれるゆえんなのだろうが、私はそんな権威的なくだらないことよりも、誰もが読めて、誰もが何かを感じられるものをつくることを最優先しているのである。

恥ずかしながら本音をいえば、特に中学生、高校生に一番読んでもらいたいと思っている。
これまで私にとって一番うれしかった「書評」は、朝日新聞に高校生が拙著についての感想を投稿してくれた時のことだ。
どんなに有名な作家や評論家に賞賛されるよりも、そっちの方が何千倍もうれしい。

だが、テストに出題されるということは、「問題になるぐらいの理解しにくいもの」があるということになる。
もちろん、入試問題には吉本ばななさんのような文章も使われているわけだから、必ずしも難儀なものである必要はないのかもしれない。
そういう意味では、ちょっと安心していいのだろう。

けど、少なくとも文章を読んで、受験生が眉間にしわをよせてアタマをひねっている様子を思い浮かべると、複雑な気持になる。
「大丈夫だよ、そんな難しくないよ、肩の力を抜いて読んでくれ」と声をかけたい気持になる。
受験生の息子や娘をもつ親のような心境である。

ともあれ、今度入試問題をもらって、ちょっと解いてみようと思う。
自分の文章なので、まさか漢字の読み書きや指示語問題を間違えることはないと思うが、なんか不安だ。



kotaism at 22:41 │Comments(3)clip!日々のこと 

この記事へのコメント

1. Posted by なるわん    2008年03月02日 20:55
私は浪人経験ありなので、数え切れないほど現代文の問題を解きました。その中から、素敵な文章や本との出会いはたくさんあって、読書好きにさらに拍車がかかったような気がします。多感な時期に、石井さんの文章に出会える受験生が少しうらやましいです。
2. Posted by みその    2008年03月02日 22:21
私も、高校生に読んで欲しい本だと思って、知っている高校生に勧めたりしてます。
今のところ、100%のヒット率(母数が少ないから大げさな言い方ですが・・・)で手にとってもらっていますよ。真剣に読んでいましたよ。
3. Posted by 石井光太    2008年03月09日 01:18
いやー、お恥ずかしい限りです。
でも、こういう形で自分の作品と接する人がいるというのは、なんか面白いですね。

そういえば、意外なことが。
テキストに掲載された文章は、一応ページ数に応じて印税が入るらしいのです。
それこそ、何百円とかのレベルでしょうけど、問題集のようなものでも、印税を計算して払っているというのには驚きました。ちゃんとしているんですねー。
出版業界というのは本当によくわからない。変なところで厳しく、変なところでゆるい。
たとえば、図書館なんかは著者には一銭も払わずに実売数以上の人に無料で貸し出ししている。一方、過去問題集をつくる会社は一部の引用箇所を掲載するだけで、丁寧に印税を支払う。
ちなみに、出版業界はまだしも演劇業界はホントひどいみたいですね。出版社の8、9割はちゃんと確定申告の書類を送ってきますが、劇団なんかはほとんどそんなことしないそうです。

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