明日、14日の夜に放送されるＢＳドキュメンタリ番組がある。
ラオスの不発弾をあつかった「クラスター爆弾との闘い〜ラオス・不発弾処理に挑む村」という番組なのだが、実は僕が企画から関わってきたものだ。ＮＨＫへの企画書を考え、構成を支持して、ロケハンに同行した。
が、先日撮影を担当していただいた方から連絡を受けるまで、すっかり放送があることを忘れていた。
なんせ、最初に話がもちあがったのは3年前、ロケハンにいったのが今年の9月。で、ようやく明日放送である。

モノづくりにタイムラグは付き物だ。

雑誌の場合は比較的早い。
締切から発売まで、週刊誌の場合は数日、月刊誌の場合は2、3週間ぐらいである。

漫画の場合、僕は原作なのでもうちょっとタイムラグがある。
漫画月刊誌の場合、原作をだしてから漫画になったものが発売されるまでは1カ月ちょっとある。
つまり、原作者が原作をだして、漫画家が漫画にするまで数週間あり、さらにそこから雑誌がつくられているというわけだ。
先日も一冊送られてきたが、たしか原作を提出したのは一カ月ぐらい前だったと思う。ちょうど忘れて頃に作品になって送られてくるのだ。

単行本の場合はもっと長い。
「校了」をいつとするかにもよるだろうけど、最初に原稿をだした時から計算すると4カ月ぐらいある。
たとえば先週ＯＫがでたＫ社から出版する原稿があるのだけど、これが発売されるのは来年の3月の予定である。ちょうど4カ月ぐらい間があるということになる。

何にせよ、つくった瞬間に作品になるわけではないということだ。

ここで問題。
このタイムラグのせいで、作品が完成しても、実作者には「つくったー」という達成感がまるでないのだ笑）。

役者や歌手ならその場で「芸」を披露して拍手がもらえる。
感極まって泣いてしまう役者だって、歌手だっているだろう。感動が忘れられないからつづけているという話もよく聞く。
たぶん、彼らはやっているところを見せて、その場で拍手をもらえるから「やっりきったぞ」という達成感を得られるのだろう。

が、文章の場合は、それがぜんぜんない。悲しいほどない。
特に、ルポなどの場合は、取材期間から活字になるまでがとても長い。読者にとっては「今読んだ話」でも、僕にとっては「何年も前に体験した話」であり、すでに次の取材を始めていたり、まったく違う作品を書いている最中なのだ。だから、新聞に書評が載ったり、読者と話をする機会があっても、「そういえば、数年前にそんなことあったな」ぐらいにしか思わないのである。

そうそう、以前インタビューを受けている時にこんなことを言われた。

「なぜ、あんな体験をして、それを普通に話せるんですか」

ぶっちゃければ、「数年前の話」だからである。
体験した瞬間は色々と思うことはあったけど、時間が経てば客観的に考えられるようになる。人間というのはそういうものなのだ。

僕はこれはこれで全然ＯＫだと思っている。
それゆえの利点だってあると思うからだ。たとえば、演劇でミスをしたら取り消すことはできないけど、文章ならいくらだって本になる前に書き換えられる。一長一短ではあるのだ。

ただ、やはり「となりの芝は青く見える」わけで、終わった直後に拍手をもらえて「ブラボー」といわれるのは羨ましいなと思う。
モノを作って、その場で見せて感動させる、驚かせる、といったことについつい憧れてしまうのだ。

演劇でも、音楽でも、料理でも、絵でもいい。
その場でヒョイヒョイとやって（あわよくば、やっている姿を見せる）、「うわー、すごーい」と言ってもらいたいのである。
モテルこと間違いなしである。ヒーローになれる。

が、現実はその正反対だ。

つくっている時は誰も見ていない。それどころか、完全に個室に一人きりである。
薄暗い部屋にこもってひたすら文字と格闘しつづける。一週間誰ともしゃべらない、部屋から一歩も出ないなんてことすらある。で、ようやくつくっても、出版社の人に「面白かったです。これは読者ウケすると思いますよ」と一言いわれて終わり。活字なので、基本的に読者の反応を直接目にすることもない。作品が形になって送られてくる頃には全然違うことをやっている……

うーん。

来世は、役者か歌手になるしかないだろうな。



追記
ここまで書いてふと思い出した。
十代のころ、「数学ができる男」がすごく羨ましかった。
テストの前になると、クラス中の女の子に囲まれて「○○クン教えてー」と言われる。その場でスラスラと解くと、「うわー、すごーい」という声が上がる。女の子たちに尊敬のまなざしで見つめられる。
一方、文系が得意な男は損だ。国語や社会なんかができても、まったくその恩恵を授かることはない。国語なんてその場で解いてみせるようなことはないし、社会や漢字なんて教科書を開けば答えが乗っている。女の子は誰も聞いてくれない。
そう考えると、僕は非常に「損」な道をたどっているような気がする。