前回のつづきです。

斎藤幸裕が運送会社で働いている間、妻のEはコンビニと風俗店で働いていました。
Eは連日昼から零時まで働いていたため、かなりまとまった稼ぎがあったと考えられます。そのお金でブランド品を買っていたらしいことは前回書きましたが、それ以外にもホスト遊びもしていたようです。

裁判では、Eがちゃんと理玖君の育児をしていたかどうかが問われました。
その中で、このホスト遊びの話が出た時、Eは次のように証言していました。

「厚木のホストクラブに行きました。でも、一回ぐらいです。家出をする前かした後かはおぼえていません」

Eの主張の裏を返せば、風俗で働いたのは生活費のため、私はちゃんと理玖の育児をしていた、と主張しているのです。

しかし、これは裁判とは別の僕の独自取材なのですが、実際はかなり行っていたという知人の証言もあります。
もしホストクラブに頻繁に通っていたとするならば、彼女の法廷でのその主張は音を立てて崩れることになるでしょう。
(ここらへん、くわしい方をもっと探し当てて情報をいただきたいと考えています)

当時、理玖君はすでにネグレクト状態にあった可能性は非常に高いです。
Eの友人によれば、理玖君は体からおしっこの臭いが漂っていて、なんでも手づかみでものを食べてしまうような状態にあったといいます。
友人は、自分の子供に悪影響を与えると考え、理玖君に近寄らせないようにしていたとか。
放置していた結果が、こういう状態に陥らせていたと考えられます。

妙なのが、Eが裁判の中で「私なりに理玖の面倒をちゃんと見てました!」と数えられないぐらい主張していたことです。
しかし、朝コンビニで働いている時に置きっぱなしにして、昼から夜中まで託児所に預けて風俗店で働き、給料をブランド品などにつかっていたと聞けば、だれもが首をかしげるでしょう。

このちがいは何なのでしょう。

たぶんEの育児に関する想像力の乏しさなのだと思います。
Eにとって、おそらく育児の概念はものすごく貧しいものだったにちがいありません。だから、自分ではちゃんと育児をしていたなどと堂々といえるのです。
しかし、実際、Eの関心はもはや家庭にはありませんでした。

平成十六年の10月のことです。
Eは西新宿に暮らす友達から連絡を受けます。その友人が自殺すると言い出したそうです。それで、Eは幸裕に理玖君をまかせてアパートを出て行きます。
Eの言葉を信じるなら、彼女は友人の自殺を思いとどまらせるために西新宿の友人の家にいたそうです。
(幸裕は理玖君の世話をまかされたという記憶すらありません。正直、ここらへんはEの作り話の可能性も否定できません)

が、その間に理玖君はフラフラッと家を出て行ってしまいます。
そして近隣住民から通報があり、警察が理玖君を保護します。むろん、警察としたらどうなっているのかと思い、身元を特定して幸裕に電話し、つづけて児童相談所にも通報しました。
幸裕は仕事中だったため、Eに電話をして引き取りに行くように言いました。Eは西新宿の友人の家(証言を信じるなら)におり、あわてて地元に帰って理玖君を引き取りに行きます。

児童相談所によれば、この時の理玖君の体にはネグレクトのあとが見受けられたようです。
服装はTシャツにオムツで、足ははだし。髪は伸び、しゃべることができず、体はふけつで、爪はのびきっていたということです。
今であれば、児相は虐待と判断して保護するなり何なりの処置をとるでしょう。
しかし、当時の児相にはまだそこまでの考えがなかった上、一人の担当者が150人の子どもを同時にあつかっているような状況でした。しかも、この時理玖君を扱ったのは、本来の担当ではない人でした(担当者は理玖君が保護された時、児相にいなかた)。
そのため、児相はEが迎えに来て引き取ると行ったことから虐待ではなく、「家出」として処理して、Eのもとに理玖君を返してしまったのです。

これが後に最悪の事態を生むことになります。

Eはその後、理玖君をつれていったん家に帰ります。
そして、理玖君を幸裕にあずけ、ちょっと出かけてくると言ったまま家出をしてしまうのです。
裁判でEは「幸裕のDVに耐えられなくなって家出した」と言っています。しかし、どこまで本当なのかは疑問です。
本当にそうなら、なぜ理玖君を幸裕に預けて家出をしたのでしょう。Eが朝から晩まで働いていてDVをする人間だとわかっていたら、理玖君を預けて行方をくらますなんてことがあるでしょうか。

しかし、Eはアパートを出て行ってしまいました。
そして、幸裕とEの二人だけの生活がはじまり、事件が引き起こされるのです。



※Eのこの前後の証言は非常に疑わしいものがあります。現在それを取材で調べていますが、もしほんの少しでもEのことを知っている方がいらしたらご連絡いただければ幸いです。プライバシーはかならず守ることをお約束いたします。取材の成果は、新潮社より雑誌、単行本となります。
連絡先
石井光太
kota_ishii@yahoo.co.jp




★★この事件を2016年8月に書籍にしました★★

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