石井光太 − 旅の物語、物語の旅 −

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本日、新刊『レンタルチャイルド―神に弄ばれる貧しき子供たち
』(新潮社)が発売になりました。

処女作『物乞う仏陀』で、簡単にレンタルチャイルドの存在を描きました。
マフィアによって手足を切断されて物乞いをさせられる子供たちについてです。

あの取材をした後、僕はレンタルチャイルドたちが成長してどうなっていくかが気になり08年まで断続的に取材を行っていきました。

レンタルチャイルドの多くは路上で死んでいきますが、生き残った数名の子供たちは「路上の悪魔」へと変貌を遂げていきます。
マフィアに虐げられていた子供たちが城を築き上げ、悪魔として路上に君臨し、次々に犠牲者を生んでいく。
犠牲者となっていくのは、さらに弱い子供たちです。

しかし、数年すると、インドは経済発展の怒涛の波に飲まれました。
町は繁栄に歓喜し、悪魔となって路上を占拠する子供たちを押し流していきます。
ある者は殺され、ある者は捕えられ、ある者は臓器を売られていく。その中で生き残った者はどうなっていくのか……。

本作は「レンタルチャイルドのその後の人生」を10年がかりで描いたものです。
海外を舞台とした作品の集大成という位置づけであり、現在出しうる限りのすべての力を振り絞って書きました。
今後、僕は作品の舞台を少しずつ日本へとシフトしていくと思いますが、一つの国を舞台にして、長期間にわたってここまで踏み込んだ形で作品を書き上げるのは最後になるかもしれません。

是非、ご覧いただければと思います。
ご感想等お待ちしておりますので、宜しくお願いいたします。



※注
本書は『月刊PLAYBOY』『新潮45』に連載したものに大幅に手を加えたものです。
この本に関するトークイベントを、6月5日(土)に阿佐ヶ谷のロフトで行いますので、是非遊びに来て下さい。未公開写真等もお見せいたします。詳細はこちらをご覧ください。

十数年前、僕がはじめて海外を旅し始めた時、ちょうどバックパック旅行ブームだった。
どこの都市へ行っても、薄汚い格好をした眼鏡に無精ひげの日本人が大荷物を抱えて歩いていたものだ。きっと僕もそんな一人だったにもかかわらず、「俺はこいつらとは違うんだ。俺には本を書くという大志があるんだ」と生意気なことを考えて、彼らと一切会話をしなかった頃が懐かしい。おかげで、今に至るまで「旅友達」という存在が皆無である。。。

人が何に触発されて旅に出るかは人によって違う。
ちょっと前の世代なら、藤原新也さんの『インド放浪』や開高健の『オーパ』にあこがれて出かけた人もいるだろう。
僕の世代では蔵前仁一さんの本とガイドブックが、旅行者たちの「バイブル」だった。みんな「地球の歩き方」をもつのはダサいと考えて、『旅行人ノート』(蔵前さんが主催する旅行人社のガイドブック)というバックパッカー向けのガイドブックを片手に、『ホテルアジアの眠れない夜』『旅ときどき沈没』『旅で眠りたい』などを読んでいる人が多かった。

僕はこの場に及んでも強情だった。
「俺はバックパッカーじゃないんだ」と思って、なぜか『聖書』や『コーラン』を読んだり、ダンテの『新曲』やプルーストの『失われた時を求めて』や岩波文庫の『源氏物語』をリュックサック一杯に入れて読んだりしていた。どちらも、「日本では絶対に読まないから海外で読もう」と思ってもっていったのだが、ダニだらけのくそ暑い安宿でこんな難解な読書なんてできるわけもなく、挫折しまくった記憶がある。おかげで、僕の頭の中では「失われた時を求めて=インドの猛暑地獄」である。

たしか、大学二年か三年ぐらいの時だったと思う。
この時も、僕は旅行先に馬鹿みたいに格好つけて身の程も知らず『純粋理性批判』と『資本論』を持参していた。が、あまりにも意味不明で、わけがわからず、自分の理性まで崩壊しかかり、読めば読むほど頭痛がしてきたため、こりゃいかん、と命の危険を感じて、ネパールの古本屋に売りに行った。そこで、代わりに手にしたのが、蔵前仁一さんの『ホテルアジアの眠れない夜』と『ゴーゴー・インド(『ゴーゴー・アジア』だったか?)』だった。生まれて初めて読んだ旅行本だった。

正直、読んだとたんに「え!」という驚きがあった。

描かれていることがあまりにリアルで、エッセーのひとつひとつが自分について書かれているような気がしたのだ。
日本人が旅行者として海外へ行く時、外国人への驚き、海外の風景に対する目新しさ、文化の違いに対するもどかしさ、小さな感動や喜びなど様々なものに出くわす。そうしたことが一冊の本の中に、リアルでユーモアのあるイラストとともに完璧なまでに描かれていたのだ。
それに出会った時、僕は思わずこう考えた。

「日本人旅行者は、蔵前仁一さんが描いた<旅>のまねをしているだけではないのか。蔵前仁一さんの旅をたどっているだけなのではないか」

あまりにも旅で出くわす事柄がリアルに描かれているために、思わずそう考えてしまったのである。
(実は、今でも多かれ少なかれ、蔵前さんの描いた「旅」が、日本人旅行者の旅の原風景になっていることがあると思っている)
これが、旅行本の面白さをはじめて知った時だった。

以来、僕は蔵前さんの本を見つける度に読んできた。
実を言うと、旅行本のベストセラーである『深夜特急』も最後まで読んでいないし、『アジアン・ジャパニーズ』も一巻の途中で挫折した。けど、蔵前さんの旅行本だけは全部面白く読んでいる。文章の中の、小さなユーモアと的確な観察眼に憧れるのである。

そんな蔵前さんの主催する『旅行人』にはじめて寄稿したのが、処女作をだした年のことだった。05年である。
そして、2、3年前から毎号20〜30枚ぐらいの文章を「アジアにこぼれた涙」として連載させてもらっている。前号では、イランに逃げてきたイラク難民の話を書かせてもらった。
また、蔵前さんも僕の著作をHPや雑誌で紹介してくださった。この間も『週刊現代』で僕の本の書評を書いていただいたばかりだ。本当にありがたいことである。

が、実は一度も顔を合わせたことがない。
いままですべてメールや電話やFAXでのやりとりだけで、直接話をしたことがないのである。
それが、ようやく、今度お会いできることになった。
蔵前さんの新刊『わけいっても、わけいってもインド』の刊行にあわせて、二人でトークイベントをすることになったのである。
もともとは、今年の春に僕が三省堂書店(成城店)の内田店長と話をしていた時に、ふっと沸いて出た話が、今になって実現したのである。
トークイベントでは、僕と蔵前さんがそれぞれ違う視点で「インド」について語ることになっている。これは講演などとは違って数十人規模の小さなトークイベントなので、お客さんとの距離も近いのでうれしい。イベントが終わってから声をかけていただければ、うだうだ、ぐだぐだと直接お話できるので、ご参加してくださった方は、是非終了後に声をかけてほしい。
詳細は、以下。


三省堂書店成城店開店3周年記念
蔵前仁一×石井光太トークイベント

蔵前仁一さんと石井光太さんのトークイベントを開催します。
『わけいっても、わけいってもインド』は、蔵前さんにとって久々のインド本。ディープでホットなインド対談をご期待下さい。

イベント参加ご希望の方は、当日、三省堂書店成城店で、石井光太さんか蔵前仁一さんの著書をお買い求めください。先着30名様に当日整理券を配布します。

■日時
9月27日(日)14:30会場、14:30開演

■場所
カフェダイニング エルヴェ
東京都世田谷区成城6-5−34成城コルティ2階
※小田急線「成城学園前」の駅ビルの中です

■お問合せ先
三省堂書店成城店 電話03-5429-2401(10時から21時)
http://www.books-sanseido.co.jp/shop/seijo.html
※お電話でのご予約も承ります。(定員になりしだい受付を終了いたします)

■お申込方法
店頭にて、蔵前仁一さんの新刊『わけいっても、わけいっても、インド』、または『絶対貧困』など石井光太さんの既刊本をお買い上げのお客様先着30名様に、整理券を配布いたします。

※トークイベント終了後、サイン会を開催いたします。
※当日、ドリンク代として別途500円いただきますので、予めご了承下さい。



なお、蔵前さんの新刊は次のものです。発売は9月1日です。
(トークイベントに参加される方は、三省堂成城店でお買い求め下さい)
僕はすでに見本を読ませていただきましたが、絵画を舞台に、インドの奥深にどんどん、ずんずん、ぐいぐい分け入りながら、<インドの原風景>と<インドの現在>が交錯する世界を垣間見られる本です。蔵前節ともいえるユーモアのある文体と、これまたユーモアにあふれたインドの僻地で描かれた絵画がなんとも魅力的です。どうぞご覧ください。

わけいっても、わけいっても、インド
クチコミを見る

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先日も書きましたが連載のお知らせです。

本日発売の『PLAYBOY (プレイボーイ) 日本版 2008年 10月号 [雑誌]
』にて、『地を這う裸虫』という作品を載せています。
これは処女作『物乞う仏陀』のラストにあるインドの話の続編です。

最初にお断りしておきますが、今回は相当ディープな話です。
これまでの作品では、時々ホッとさせるような描写や、明るい描写なんかも織り交ぜてきました。あるいは紀行形式のルポという性格上深さより、幅の広さを重視していたこともありました。来年刊行したいと考えているアフリカを舞台にした作品もそうする予定です。
ただ、今回のインドの話は「これまでの幅広い紀行形式のルポの中の一テーマだけを徹底的に深く掘り下げる」という意図でやっているものです。言ってしまえば、どこまで深くできるかという僕自身への挑戦でもあります。

もしかしたら、お読みになった方の中には「うわっ、もうダメ」と思うようなこともあるかもしれません。
これまた僕が連載をしている『旅行人』の編集長蔵前仁一さんからも昨日メールをいただき、
「すごいレポートだと思います。迫力がありすぎて、途中で読むのを ためらいながら読み終えました」
と言われてしまいました。能天気な僕は勝手にほめ言葉だと思ってますが(笑)。
けど、ぶっちゃけ、僕自身も書いていて音を上げたくなることもあります。ただ、重い世界の現実を描写しつづけることによって、その果てに何か違うものが見えてくるのではないかとも思っています。
それが何なのかは書き終わって見なければわかりませんし、読み終わってみなければわからないことだと思います。ただ、今回の連載を通じて、そこにあるものが何なのかを探る旅をしたいと思っていますし、読者のみなさまにもしていただきたいと思っています。

毎回、ヘビーな文章で申し訳ありませんが、今後ともよろしくお願いいたします。


追記
今回の特集は「人生が変わる旅の本100」です。
編集後記で編集長の田中さんが紹介されていた「若い時に旅をしないと、歳をとった時に語るべき物語がなくなる」という言葉は、僕も名言だと思います。
旅というのは必ずしも「旅行」のことではなく、人生における挑戦から挫折まですべてを示しているのでしょう。
僕も歳をとって何かを語れるように、今のうちに色んなことに挑戦してかないとと改めて思った次第です。まぁ、あんまり饒舌な老人も迷惑な存在ですので、テキトーに沈黙し、テキトーに語るぐらいがいいのでしょうけど(笑)。

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