何年か前に、防衛庁のキャリア組の人と知り合った。
その人は、防衛庁に籍を置きながら大学院で勉強をしていた。

何を研究しているのかと尋ねたところ、その人はこんなことを言っていた。

「日本が中国へ攻め込んだ時のシュミレーションを研究しているんです。特に日本がチベットに入った時のことを博士論文でまとめようと思っています。チベットは標高が高いですよね。おそらく自衛隊がチベットに入れば、高山病が大きな問題になると思うのです。それによって戦争の方法が変わると思うんです。それをどうすればいいかを研究しているんです」

自衛隊がチベット遠征……
その時は、「うーん、税金つかってそんなこと研究されてもなー」なんて思った。

ただ、よくよく考えると、戦争って「戦死」するのと同じぐらい「病死」が多かったりするのだ。
いや、むしろ戦闘死より、病死の方が多い場合があるのだ。前に、太平洋戦争中に軍医をしていた人のインタビューをテレビで見た時、「戦闘で死ぬより、マラリアや栄養失調で死ぬ人の方がずっと多かった」と言っていたっけ。

つい先日、「旅と病の三千年史」という本を読んでいたら、戦争における戦闘死数と病死数の比較が載っていた。

クリミア戦争
ロシア 戦闘死数4万人  病死数9万人
フランス戦闘死数2万人  病死数7万人

ボーア戦争
イギリス戦闘死数6千人  病死数1.1万人

日露戦争
ロシア 戦闘死数3.1万人 病死数8千人
日本  戦闘死数5.8万人 病死数2.2万人

これを見ると、20世紀の初めまでは、戦争において戦闘で死ぬ人の倍以上も病死していたことになる。
日露戦争でようやく病死者数より戦闘死者数の方が多くなるものの(医学の発達によるものだろう)、戦争の形によっては病死数の割合は高まるに違いない。
おそらく先の太平洋戦争における地上戦や、ベトナム戦争のようなゲリラ戦では病死数はかなり多いはずだ。

戦争というと、なんだかドンパチやって人が死んでいくことばかりが思い浮かぶ。
また、そうやって死んだ方が「名誉」と見なされるので、病死や事故死は隠ぺいされる傾向にある。
しかし、ちょっと観光旅行へ行っても下痢をしたり感染症にかかったりするぐらいなのだから、極限状態で戦争などやれば病死する人はすごい数になるはずだ。

戦争における病死が注目されることなんて、まずないとは思う。
でも、だからこそ、軍医なんかに実態を証言を集めたりすれば、いわゆる戦争とはかなり違った視点での「戦争」を見ることができるのかもしれないとも思う。


旅と病の三千年史―旅行医学から見た世界地図 (文春新書)