石井光太 − 旅の物語、物語の旅 −

2010年09月

昨夜、飲んだ際に、「この世で一番最悪だった対談」について熱く語る。

詳しく書くと、誰、とわかってしまうので、書かないが、その人との対談は本当にうんざりだった。
自分から一言もしゃべらないし、何かを考えようともしないし、これまでしゃべってきたことを、機械のように繰り返すだけ。
そもそも、何の準備もしてきてないので、自分のことしか話さないので会話にならないのだ。
こっちの話とは全然ちがう話を能面のような顔でしているだけ。
なんつーか、ぶっ壊れたロボットである。

さらに、こっちが何かを指摘したら、近くにいたその人の編集者がいきなり「●●先生はそんなんじゃないんです!」と言いはじめる始末。
(あんたは、●●氏の恋人か?)

で、出来上がった対談は、当日の話を強引につぎはぎしたもの。
会話になっていないし、内容がさっぱりわからない。しかも、赤字を入れろと言われたので入れたら、今度はいきなり、その●●先生とやらの編集者が「●●先生の意図はこんなんじゃないんですぅ!」と怒りっぽい小学生のような言いがかりをつけはじめて、勝手に僕のセリフを変えてしまう始末。

(「こんなんじゃない」というのはあんたが決めることじゃないだろ。それに、●●先生とやらは、一人で的外れなことばかり言ってたじゃないか。それを強引に対談としてまとめたら、うまくいかないに決まってるだろ)

まぁ、言い出すときりがないけど、本当にうんざりだった。
●●先生とやらも、その担当編集者とやらも、自分たちのことしか考えず、わけのわからないことをやって、場を無茶苦茶にしてしまうだけ。
はっきりいって、事前に何の準備もできないなら、仕事を受けるな。
会話の流れに関係なく、ロボットのように決まり切ったことしか言えないなら、講演でもしてればいいだろ。
原稿だって、つぎはぎしてもムチャクチャで形になっていないなら掲載をやめるか、もう一度話をさせるべきだ。「それは●●先生に悪いから」なんていうのなら、「それは読者に悪いから」と思わないのか。
(そもそも、出版物は読者のためにあるのであって、●●先生のためにあるわけじゃないだろ。そういう当たり前のことを当たり前のこととして考え、実行できないから、出版業界がボロボロになっていくんだ)
そういう常識があまりにもなさすぎる。本当に散々だった。

と、僕はいまだにプイプイ怒っている。
まぁ、わかる人にはわかってくれるだろう。

さて、そんなことはどうでもいい。

10月19日に徳間書店より、写真エッセー集『地を這う祈り』を刊行することになりました。
これまで十数年の旅の写真をカラーで載せ、その思い出をいろいろと書きつづったものです。
詳しくは発売の際にお知らせしますが、この本の刊行を記念して、イベントを行うことになりました。

が、講演じゃないので、僕がひたすらしゃべりつづけても、飽きてくる。
そこで、僕は最初から最後まで出るものの、いろんなスパイスを混ぜてやっていこうということになり、ミシマ社の全面協力を得て行うことにしました。
題して、「地を這う三時間」
イベント内容は以下になります。


■タイトル
写真エッセー集『地を這う祈り』刊行記念
「地を這う3時間!」
――変人旅人三本勝負!エロ・グロ・血 これがほんとに「旅」なのか!?

旅のスタイルがまったく違う、同郷・同級生の二人が初対決!!
‘善人旅人’近藤雄生に‘無敵のヒール’石井光太が歯をたて嚙みつく――。はたして二人は生きて、再び「旅人」に戻ることはできるのか? 抱腹絶倒、悶絶必至、お下劣御免…「旅」の想像をはるかに超える、壮絶・凄惨トークイベント。

第1ラウンド:グロテスクvsさわやか
…旅で撮影した写真を見せ合い、どちらがエグいか、笑えるかを競い合う。
(石井光太、近藤雄生)

第2ラウンド:観客参加型バトルロワイヤル
…レフリー‘Mr’三島が加わり、観客も巻き込み「ぶっちゃけトーク」を展開。
(石井光太、近藤雄生、三島邦弘)

第3ラウンド:旅とエロ(欲情)
…同じく同郷・同級生の松岡絵里さんを司会に迎え、旅とエロについて赤裸々に語り合う。
(石井光太、近藤雄生、松岡絵里)

【出演】
石井光太(『地を這う祈り』、『レンタルチャイルド』)
近藤雄生(『遊牧夫婦』)
松岡絵里(『世界の市場』、『してみたい!世界一周』)

企画:徳間書店+ミシマ社 
販売協力:旅の本屋 のまど ※会場で新刊本『地を這う祈り』を発売しています!

日程
10月31日(日)
OPEN12:00 / START13:00
前売¥1,500 / 当日¥1,600(ともに飲食代別)

場所
Loft A
166-0004 杉並区阿佐谷南1−36−16−B1
TEL:03-5929-3445
http://www.loft-prj.co.jp/lofta/

前売チケットは10/2(土)より、ローソンチケット、ロフトAウェブ予約、ロフトA電話予約にて発売!
※ご入場順はローソンチケット→web予約→電話予約 の順になります。

ローソンチケット:Lコード【L:32778】
web予約:http://www.loft-prj.co.jp/lofta/reservation/
電話予約:03-5929-3445 (17:00〜24:00)



という感じです。

実は、近藤さんと松岡さんとは同級生で、育った場所も同じ。
松岡さんと僕は小中学校の同級生で、近藤さんは隣の学校でした。
そんな近くで生まれ育って、まったくつながりのなかったところから、海外を舞台にした本を書いているのは、ちょっと不思議。
ということで、一緒にイベントをすることになったのです。
上記のイベントの概要は、なんかプロレス&サブカル的なニオイがしますが、これは、プロレス好きの三島さんが概要を書いたためでしょう(笑)。
別に殴り合いをするわけではなく、本音のぶっちゃけトークをするだけです。ご安心あれ。

ちなみに、なぜ僕が「無敵のヒール」なのだろう? 三島さんの中では、僕は「ヒール」のイメージなのだろうか(笑)。
まぁ、僕は結構ズケズケと物を言ってしまう性格なので、近藤さんや松岡さんには迷惑をかけてしまうかもしれないけど……

では、会場でお会いできるのを楽しみにしています!

中国製の商品がアフリカになだれ込んでいる。
日本人や欧米人は「中国製は安いけど、品質がぜんぜんダメ」とひがむように言う。
15年ぐらい前までは市場のほとんどを日本や欧米の製品が占めていたのだから、そう文句を言いたくなる気持ちもわかるだろう。
しかし、本当にそうなのだろうか?

たしかに、中国製は品質が悪い。
プラスチック製のバケツなどもあっという間に壊れてしまう。これは現地の人にとっても、不評である。

しかし、忘れてはならないことがある。

つい10年ぐらい前まで、アフリカでは女子供が重たい壺に水を入れ、それを頭にのせて運んでいた。
これによって、脊髄を損傷したり、熱射病で熱中症で命を落としたりする人が大勢いた。
壺であることが、様々な弊害を生んでいたのである。

ところが、中国製の安価なプラスチックの容器が入ってきた途端、それが一変した。
酷暑の荒野で毎日何時間も水運びをしていた女子供にとって、5キロの壺が1キロ以下のプラスチックの容器になることが、どれだけいいことか。
しかも取っ手があるので手で持てたりする。
現地の人間が、多少品質が悪くても、それを選ぶのは当然だろう。
そういう意味では、粗悪な中国製品も、現地の生活や健康に大きく貢献している面があるのである。

粗悪品だけども、安くて、軽くて、便利なものが、どれだけ現地の人たちのためになるか。
(同じものを日本がつくっても、「安くならない」「便利すぎて使えない」などの問題が出てくるかもしれない)

私たちは「中国製品が売れている」と聞くと、すぐに「でも、品質が悪いからな」という。
しかし、「売れている」のには、かならずわけがある。
僕は中国のことを好きでも嫌いでもないけど、そういう角度から中国製品をいま一度見直してみてもいいんじゃないかな、とも思う。
なぜ、10億人ともいわれる絶対貧困の人々が、中国製を求めるのか。
それは、単純に「安い」ということだけじゃ片づけられない一面もあると思う。

いま、12月に刊行する絵本の企画を進めている。
僕は「文」はもちろん、原案、コマワリ、それに絵の構図や細かな描写の指定まですべてをやっている。
僕が「こうしてくれ」と言い、絵本作家が「まったく、注文ばかりで困るわ」と言いながら描き直し、編集者がフォローし、三人で進めているのである。
(途中で、もう一人の編集者が入って四人で行うこともある)
物語の絵だけで、80Pの長編。これをラフの時点から、なんだかんだ、5、6回描き直してもらっている。絵本作家には、本当に頭が下がる。

と、まぁ、そんな感じで進めているのだが、いざ、色づけした絵を描く、という段階になり、ひとつ大きな問題に突き当たった。

「ヒロインの女の子を美人に描くか否か?」

という問題である。
具体的にいえば、外国で暮らす10歳ぐらいの女の子だ。

僕と編集者(男)は、初めから「美人」だと想定していた。
だが、絵本作家(女)が、描いてきた絵は、お世辞にもカワイイとは言えない顔だった。
彼女はかわいい女の子を描くのが非常にうまい作家である。なのに、わざわざヒロインをかわいくない顔にしている。
一体どういうことか。
さっそく、僕はちょっとしたショックを受け、女の子の顔に五十回ぐらい◎を書いて、「ここを、直して下さいよ。なんで、こんな顔にするんですか。ヒロインなんだから美人じゃなきゃ!」と言った。
すると、絵本作家は、次のように言った。

絵本作家「いや、女性の読者は、ヒロインが美人だとひいちゃいますよ。色気のある女性はNGなんです。ヒロインを描く時は、わざと美人じゃない感じに描かなきゃいけないんです」

石井「いやいや、ヒロインっすよ。ヒロインが美人でなくて、どうするんですか。しかも、この登場人物は子供ですよ。なんで、絵本を読む子供や大人が嫉妬するんですか」

絵本作家「嫉妬するんです。女性というのは、そういうモノなんです。絵本を買うのは、母親です。母親の感情を逆なでするようなことはやめた方がいいですよ」

石井「まじっすか。じゃあ、たとえば宮崎駿のアニメとかどうなんですか。主人公は美人ですよ。半ケツだったり、パンツ見えてたりするし。でも、女性ファンは多いですよ」

絵本作家「あれは、中性的だからいいんです。宮崎駿の主人公は中性的なので、女性の嫉妬の対象にはならないんです」

石井「う〜ん(頭を抱えて)。仕方ない。そこまで言われては、僕も返す言葉がないっす。しかし、ヒロインがぜんぜん美しくないというのは、どうしても受け入れられません。中性的な感じでOKなら、せめて中性的な感じにして下さい」

こんな会話が交わされ、主人公の女の子は、不本意にも(めでたく?)、中性的な顔になることになったのである。
今もって、男の僕としてはヒロインがかわいくないのが腑に落ちないのだが、ただ、こういうことは今までにも何度かあった。女性読者を想定した時、「美人はやめろ」という声がどこからかかかるのである。

僕はひそかに、この現象を「かもめ食堂現象」と呼んでいる。

「かもめ食堂」という邦画がある。
非常にいい映画なのだが、男性から見ると、どうも登場人物が物足りない。次の三人である。

小林聡美
片桐はいり
もたいまさこ

三人とも、男性が好きな「美人」ではないのは明らかだ。
そのためか、男性でこの映画をいいという人はほとんどいない。
しかし、女性の多くは、この映画を絶賛する。僕も女性に勧められてみたし、上記の絵本作家や、その後に打ち合わせをしてこの話をした別の出版社の女性編集者も「あの映画はいい!」と言っていた。
この映画の監督は、女性の荻上直子。原作は、群ようこである。つまり、女性の心を女性の作り手たちがガッチリつかんで、いい映画に仕上げたのだろう。
だが、男からすると「…………」なのである。

こういう問題は、作り手の側にはいつも、「壁」として存在するある。
今回の絵本はもちろん、これまで手掛けてきた漫画でも、テレビでも、そういう問題が発生するのだ。
(文章だけの場合だと、読者の想像の世界になるので、こうした問題はあまり発生しない。僕が本にあまり写真を載せたがらないのは、このような理由もある。写真をつけてイメージを固めてしまうと、逆につまらなくなってしまうケースがあるのだ)

何が成功なのか。たぶん、それは「最善をつくした後の結果論」でしかない。
しかし、モノを作る時というのは、最善をつくすために、「ああしろ、こうしろ」と果てしない議論をつづけ、悩み、ぶつかり、また議論をする。
その時、いつもこの「かもめ食堂現象」にぶつかる。
漫画の場合は男性向け漫画か、女性向け漫画かという区別が一応はあるのでいいのだが、絵本となると、そうはいかない。
たぶん、絵本をやり続ける限り、ずっとこの「壁」に悩まされるのだろう。
ただ、僕は最終的に顔だけは、「画家」の感性に委ねることにしている。画家が登場人物に感情移入できなければ、絵に魂が宿ることがないからだ。

ま、どうなるか、楽しみにして下さい。
実際、僕もどういう絵になるのか、すっごく楽しみだ。

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